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水野裕子と学ぶ、スポーツ栄養学って何?②(前編)プロ選手が驚きの変化

水野裕子と学ぶ、スポーツ栄養学って何?②(前編)プロ選手が驚きの変化

鈴木 志保子

監修
鈴木 志保子
全日本代表の栄養指導も行う公認スポーツ栄養士
  • 撮影
    相良博昭
  • テキスト
    江原めぐみ
  • 撮影
    相良博昭

2017年11月16日[2018年04月11日更新]

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プロ選手こそ自分流のやり方がある。彼らに受け入れてもらうには......?

水野:一流の選手って強い信念を持っているし、トレーナーさんなど、信頼している方の言葉に従ってやっていることも多い。なかなか考えを変えにくいですよね。でも、才能がある選手ほど、食事を何か1つでも変えたらさらに大きく伸びる可能性もあるわけじゃないですか!

橋本:そうなんです。水野さんのおっしゃる通り、みんな自分なりのやり方、食べ方を実践してプロになった選手たちなので、まずは、栄養士が一人ひとりを観察して、コミュニケーションをとりながら、選手の食生活の現状を把握するところから始めなければなりません。

そのなかでスポーツ栄養士は、選手のやり方を否定するのではなくて、相手を受け入れつつ提案するというコミュニケーションの仕方を心掛けることが大切なんです。たとえば油のとり方なら、「マーガリンよりバターのほうが健康を害する脂肪酸が少ない、あるいはオメガ3脂肪酸の多いアマニ油を使うと、血液の流れがよくなり持久力アップにつながると思うよ」というふうに。

水野:なるほど。

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橋本:また、選手に教わったことですが、トップアスリートはからだを酷使しているからこそ、食事が唯一の楽しみなんです。味気ない食事だと選手は食べる気が起きません。すると、食べないから体重や筋肉が落ちていき、パフォーマンスも低下してしまう。

プロの選手たちをサポートするうえで大事なのは、いかに見た目に美しく、シンプルでバラエティーに富んだメニューを出してあげるかなんです。栄養価計算や栄養バランスは、選手に気づかれずに裏でこっそりやればいいこと。

たとえば、見た目は華やかでおいしそうなメニューでも、使う油の量はごく少量に抑えたり、こってりして食べごたえあるおかずは、トータルを考え、控えめなものと組み合わせて献立にしたり。そんなメリハリをつけた提案ができるようになったのは、20年経ったいまだからこそ。いま現場で一生懸命やっている若手のスポーツ栄養士さんは、私と同じ失敗をして、苦労されているのではないでしょうか。

選手ごとにかける言葉やタイミング、伝え方は異なる

水野:人によって指導方法を変えることはありますか?

橋本:もちろん。たとえば若い選手はプロになったとはいえ、自分に合った食べ方がわからないという人が多いんです。とりあえず先輩の真似をして食べるけど、なぜそれがいいか、理論の部分がわかっていない。

たとえば、魚の油には消炎作用があるので、ヨーロッパのサッカー選手の間では、筋肉痛や関節痛を和らげる効果を期待して、魚を食べることが見直されているんです。だから、F・マリノスのベテラン選手も積極的に食べている。でも、若手は魚を選ぶ理由がわからないし、肉が好きだったら肉を選びたいですよね。

そんなとき、チームにスポーツ栄養士がいれば、「魚ってやっぱりいいの?」と聞くことができます。こちらは魚が重要な理由を説明しつつ、「肉が好きなら、魚と1日置きに食べたらいいんじゃない?」と提案します。もちろん、食べ始めてすぐに効果を実感することはありませんが、試合に出るようになって、よりコンディションに気を配るようになると、魚を頻繁に食べることでなんとなくからだの調子がいいなと気づいていく。

食事のメニューとトレーニングと自分のからだが、理論と実感によって結びつくことで、ストンと理解できるんです。するとその食べ方が、選手の一生の食習慣になる。だから、若手に関しては細かくフォローをしながら、理由をきちんと説明してあげることが大事です。

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水野:スポーツ栄養士がいるのといないのではまったく状況が違いますね。

橋本:そうなんです。一方ベテラン選手のなかには、いまさら栄養のことを聞けないという人もいます。それこそ、アマニ油がなぜよいのか聞きたいけれど、それができない。そういう人のために、基本的なポイントをまとめた「栄養メモ」を食堂に置いておき、みんなが見られるようにしておくこともあります。

水野:栄養をマネジメントするだけじゃなく、気にしなきゃいけないこと、たくさんあるんですね!

すべての社会人の参考になる「スポーツ栄養士」の働き方

橋本:伝え方って本当に大事です。そもそも栄養士は人と対峙する仕事ですから、求められるスキルは人間力、コミュニケーション力に尽きると私は思います。先ほども、食事の状況を最初に詳しくヒアリングすると言いましたが、スポーツ栄養士は選手に寄り添い、つねにアンテナを張って、何を求めているのかを理解するということにいちばんの時間とエネルギーを使うべきだと思うんですよ。

水野:前回のインタビューで、鈴木志保子先生も同様のことをおっしゃっていました。

橋本:そうですよね。私は現在2週間に1度、F・マリノスのクラブハウスを訪問していますが、その日は勝負の日だと思っています。食堂に入ってくる選手に挨拶し、最近、試合に出ているのかいないのか、やつれた顔をしていないかどうか。主食(米や麺類)や野菜をしっかりとっているかどうかなど、さりげなくチェックします。

疲れが抜けない選手や、風邪で体調を崩した選手などは自分から話しかけてくることもありますし、こちらから「ちゃんと食事している?」と話しかけることもあります。なかには、人見知り、遠慮がち、とっつきにくい選手もいる。そういう選手たちにアプローチするためには、トレーナーやドクターなど、現場のスタッフから事前に情報を集め、選手のSNSなどもチェックするよう心掛けています。

「疲れたまってない?」とか「ご飯は減らしすぎてない?」とか、きっかけとなるキーワードって必ずあるので、それを見つけて。人前で話しかけられると嫌がる選手もいるので、その選手にとってもっとも適切なタイミングを見計らって、懐に入ります。「あなたのことを気にしているよ」「見ているよ」。そういうのが伝わると、選手って心を開いてくれますし、聞く耳を持ってくれるものです。

水野:先生のお話、スポーツ栄養士だけでなく、人間関係のなかで仕事をしているすべての社会人にとって勉強になりますね。

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継続的な栄養マネジメントによって、横浜F・マリノスの選手たちが変わった

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